製造業を営む社長の皆さん、こんにちは。弁理士の佐原雅史です。

今回は、特許の審査ルールの「進歩性」について解説します。「進歩性」は、特許の審査で70%以上の確率で指摘される最大のハードルとなります。製造業を営む社長様が知っておくべき基本知識になりますので詳しく解説します。

進歩性の判断:「仮想専門家」が、「基準日」より前の過去の技術(「公知技術」)から、「簡単に思いつく」アイデアなのかか否かで判定

「進歩性」とは、特許審査官が仮想的な専門家になりきって審査し、基準日よりも前の公知技術から簡単に思いつくか否かで判断します。簡単に思いつく場合は「進歩性なし」、簡単に思いつかないレベルに到達したら「進歩性性あり」です。

新規性と進歩性の考え方は以下の図の通りです。

<新規性と進歩性のイメージ>

上記イメージ図では、発明のレベルを階段で表現しています。発明のレベルが、公知技術の範囲内の場合は「新規性なし」です。公知技術の範囲を超えると「新規性あり」ですが、仮想的な専門官の立場で、その公知技術から簡単に思いつく範囲内なら「進歩性なし」です。簡単に思いつく範囲を超えた場合は「進歩性あり」です。

基準日とは?

審査を行うためには、進歩性「あり/なし」を判断するための「基準日」が必要です。この「基準日」は、原則、特許出願の「出願日」に設定されます。優先権を主張した特許出願の場合、「基準日」は特許出願の「優先日」と「出願日」の2つが設定されます。しかし、話が複雑になるため、優先日の詳細説明はここでは省略します。

公知技術とは?

公知技術については、新規性の解説を読んでください。

特許の審査ルール「新規性」とは?

製造業を営む社長の皆さん、こんにちは。弁理士の佐原雅史です。「新規加入」「新規採用」「新規開発」などの”新規”という言葉は、斬新なイメージがありますが、特許の審…

仮想的な専門家とは?

特許庁の審査官が主観で判断すると、審査官の個人的な技術レベルに左右されてしまいます。そこで、進歩性の判断は、仮想的な専門家(人物像)を設定し、審査官がその専門家になりきって判断します。仮想的な専門家は以下のような人物像です。

・知識レベル(その1):発明の分野において、あらゆる公知技術を入手できる。

・知識レベル(その2):発明が解決しようとしている課題側の分野についても、あらゆる公知技術を入手できる。

・技術レベル:発明の分野において、基準日より前の一般的な技術知識(技術常識)をすべて習得している。

・開発力:文献を読み込んだり、実験したり、分析したり、製造したりする一般的な能力を有している。

・工夫力:最適な材料を選択したり、設計を変更したりする一般的な能力を有している。

仮想的な専門家を一言で表現すると、知識レベルは極めて豊富であって、技術・開発力・工夫力は平均レベルの技術者となります。

簡単に思いつくとは?

『簡単に思いつく』か否かの判断は、結局、漠然とした概念となります。例えば、以下の場合は「簡単」と判断される可能性が有ります。

<簡単に思いつくアイデアの例>

・材料(素材)を変更するだけの発明(素材そのものが新しい場合を除く)

  例:AとBの接着剤を、加圧式接着剤から加熱式接着剤に変更

・サイズ、温度、速度、密度等のレベルを変更するだけの発明

  例:金属のメッキの膜厚を1.0mmから0.5mmに変更

・既存の部品を、同じ機能の他の部品に置き換えるだけの発明

  例:電気モーターで駆動していた撹拌機を、油圧モーターで駆動する撹拌機に変更

・2つ以上の公知技術の単なる寄せ集めであって相乗交換がないもの

  例:公知技術となるゴルフ用の電動カートに公知技術のエアコン装置を付加して、利用者に冷風を供給する発明
  (電動カートの「走行機能」と、エアコンの「冷風機能」に相乗効果がない)